森山大道のドキュメンタリ、劇場で見るの間に合ってよかった、何をおいてもまず、でっかいスクリーンにばばーんと引き伸ばされたモノクロのフォートを気持ちのいい音と一緒にたっぷり見られるだけでも価値があるんじゃないのか、(後半のあのガシャガシャ云うの、あの調子で149点ガツンと見られるのかと思って期待してしまった笑、それでも20カットくらい写ってたな、すごい)
写真家が、街を見つめること、カメラ持ってとにかくただ歩くこと、その時の空気とか気持ちに向き合うこと、どんなこと感じるかで切り取れる風景も変わるのじゃないかって気がした。(おしゃべりか、そうでないか、でわりと作品にこもる熱とか澱みとかも変わるのじゃないのかなとも思った) (あとめちゃくちゃ若いな、森山大道。ブーツでずんずん歩く後ろ姿がしゃんとしてて。80代ってあんな感じかしら。)
それにしても、造本家、編集者、印刷屋の「本」への情熱ときたら。北海道で紙にする為の木を選んで伐ってくるとこから撮影始まってるとか、ほんと狂ってるよな(無論褒めてる)。 おしゃれした印刷屋氏の5gの黒へのこだわりとか、わかりやすく熱がつたわってきた。後半に向けて、写真集が出来上がってゆく様の、まるで工場見学をさせてもらってるみたいな映像もよかった。熱意をもった人間の「仕事」が、だんだん仕上がってゆくことって、素直に気持ちいい。写真家に静かに褒められてすこし嬉しそうな様子もなんだかいい。
映画の中では、青山に雨が降っていて、フロントガラスに落ちる雨音も聞こえて、今日は強い雨の中を、お気に入りの傘を差して出てきて本当によかった。武蔵野館の背の高めの凭れに隠れるように座って、劇場の外の空間の全部に雨が降ってるのだと想像したら、劇場の形をしたハコに乗って雨の中を飛んででもいるような気持ちになってめちゃくちゃ気持ちよかった。
長年暮らしても東京の猥雑さが好もしいと思える日と、もうちょっと静かなところで過ごしたいと思う日と、そりゃまぁ交互にやってくるのだけれども、だがしかし、この街以外のどこにゆけと云うのさ?とキレ気味に思ったりする日がある訳です。だって、ここしか知らないし。それで最近、何かで東京生まれ東京育ちのひとのエッセイを読んで、エリアによって感じることも違うのかもね、と云う感想だった。わたしも帰るべき場所と云うのがここ以外にはなくて、仕方ない気持ちも、街を愛する気持ちも心の中にはどっちもくちゃくちゃっと折り畳まれていて、ページをめくったりするとどちらかの絵が現れるように、気持ちもそんなふうに揺れ動いたりするんだけど、でもまぁ概ね東京のことが好きです。ここしか知らなくても。
しかし、新宿という街に「あぁ、なんだか帰ってきたな」と思わせる空気がいつも漂っているのは、あれはなんだかいつもとても不思議で、東口と、西口と、南口と、空気はみな繋がっているはずなのに、どれも全部違う場所の感じがして、だけどもちろんきちんと地続きで、時々あ、この顔知ってる、って思ってる輪郭とピチッと合うような気がするの、あれはなんなんだろうね?あと同じように、今知らない顔してるよなぁって思ったりもする。どっちも好きなんだけど。
そういえば、渋谷系と呼ばれる音楽を好きな友だちが「でもなんか、渋谷よりも新宿の街が好きなんだよな、なんでかな?」って云うので、何故だろう?と考えて、あ、と思い至ったのはコレだった、と今思い出した。
昨夜の新宿で、なぜ我々は新宿を愛するのか、と云う話をした、坂道がなく平坦でどこまでも歩いてゆけるところがいいのじゃないかとか、マスクせずに道端でキスする世の中はもう戻らないのかとか、終電の時間が早まるのはほんとなのか、とか pic.twitter.com/46w7P5ghLG
— かおるこ (@pasdeLapin) October 24, 2020
21世紀の初め、新宿の外れ、真夜中の職安通りの雑居ビルで一緒に仕事してた仲間たちが、今どこでどうしてるのかぜんぜん分からないけど、変なのばかりが集まって強烈に面白い日々だった。飛行機を怖がるバックパッカー、天パがエグいバンギャのダイバー、変態プレイも辞さないミュージカル女優、マゾヒスティックな絵描きの情婦。新宿に今も置いてある(と思ってる)あの頃の空気をね、吸ってきた。胸の奥がぎゅっとなった。(演劇青年と時々行った西武新宿のイタトマカフェJr.はとっくの昔になくなってたのだった)
映画の中に、テレビ番組の映像が挿し込まれていたんだけど、今はもうなくなってしまったミラノ座のエントランスあたりが写って震えた。あそこの大きなスクリーンには、目を瞑ったらいつでも着座できるような気がしてる。(通りの後ろからあの人がわたしを呼ぶ声が聞こえた気がしたんだよな)
あ、そうだ、そのテレビ番組の映像の中に、暗室で写真を現像するシーンがあって、印画紙に通天閣(たぶん)を照射してたんだけど、あれ、なに?印画紙と光の間で手をひらひらさせてさ、あーゆーの初めて見たんだけど、あれは何?印画紙にあのひらひらっとした影を落とし込んでいたのかしら。あれって一般的にみなさんやることなの?わたしあんなの初めて見て、うわ、それはやったことなかった!ってガン見しちゃったんだけど、どなたか写真現像にお詳しい方がいらっしゃいましたらご教示願います…と云うかあんなん見るとふたたびフィルム現像やりたい欲がふつふつと。いま酢酸の匂い嗅いだら泣いちゃうかもしれない、わたし。
(※追記、映画公式アカウント様がご教示くださいました。あのひらひらは「覆い焼き」と云う名の技法でした。ありがとうございました)
新宿武蔵野館でご覧頂きありがとうございました。ブログのお言葉も素敵です。グッときました。暗室で通天閣の画像の上で手をひらひらさせているのは、「覆い焼き」という技法です。濃淡のニュアンスを表現する手法で、大道さんはその超達人です😊
— 森山大道ドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』 (@daido_doc) June 20, 2021
映画の感想どこいった。笑
でも記憶や匂いや味を呼んで、気持ちをぐるんと掻き混ぜてくる系の映画だったのは確か。困ったのは出てくるひと出てくる人、みんなが煙草を吸うことよ。5年前にチャンピックスで禁煙がうまく行ってから、ほとんど煙草を飲まないでいられてると云うのに、映像でもみんながじゃんじゃん吸ってキレイに煙を吐き出してるの見ると、強烈に欲しくなったりね、しますね。(しかし買うのはヤメておきました) それにしてもよい雨の土曜日でした。豪雨ではなかったですけど。
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